「Σ電波☆ぱ~てぃ( ゚Д゚)」開催の経緯 または私は如何にして心配するのを止めて電波ソングを愛するようになったか あるいは現代のプロメテウス

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 小5のとき、パソコンを触る授業だったかクラブ活動だったかがあり、自分の好きなものを紹介するパワポを作っていたところ、隣の席の同級生に話しかけられた。

 「東方って知ってる?」

 当時私はすでにニコニコ動画を見ていたし、太鼓のオワタツジンで「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」をよくプレイしていたものの、原作ゲーム及び二次創作群の背景としての東方Projectのことはよくわかっていなかった。トーホーと言われても字面が頭に浮かばない。 隣席の彼は、ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙の AA が添付されたパワポのスライドを見せてくれた。そして、最近ハマっているという東方の歌を教えてくれた。

 「ゆかりんファンタジア」であった。

 たしか教室では動画を流せなくて、帰宅後に調べて衝撃を受けた。曲が変すぎることにも驚いたし、見てはいけないものを見ている感じがしたし、その正体を探るべく東方アレンジで検索すると奇怪な曲が次々に出てきて不気味だった。それ以前にもモー娘。の曲とか、なんとなく親の前で聴くことに居心地の悪さを覚える曲との遭遇はあったが、「そういうジャンル」があるのかもしれないと認識したのは、このときが初めてだったように思う。

 さて、開催の経緯をこんなエピソードゼロから仔細に述べているとフェルマーになってしまうので、中学時代に「給食時間中の校内放送でアニソンは流してもよいがキャラソンは流してはならない」とする法案が全校集会で審議された話等は割愛することとする。時は流れて2024 年の春、特段の目的もなく何人かで大文字山に登った帰り道、本企画メンバーの一人であるドクター・フー氏と電波ソングについて話していて、もしかして人前で電波ソングを流したら面白いのではないか、意外と楽しんでくれる人は多いのではないかという犯意が芽生えた。

 音MADDJ で、電波ソングを使用した MAD を流すことはある。しかし、電波ソングの海は広く、深く、MAD 素材としては全然使われていない名曲が山ほどある。二次元アイドル曲にスポットを当てた「#2DiD」の開催にも背中を押されて、それなら電波ソングにスポットを当てた DJ 企画を立てれば、流したい曲を好きなだけ流せるのでは? と思い立ち、2025 年 10 月 のオタククラブフロンティアにて初開催。企画メンバーからもおすすめの電波ソングを募り、 最終的に全 40 曲の盛りだくさん mix が完成した。

 一回やると、満足する以上にもっとやりたいことが見つかってしまうもので、今回はさらにパーティーな 50曲 mix をご用意。しかも前回は私1人だった電波 DJ が3人に増え、計2時間 の企画となって、踊り疲れたあなたの残りの体力を根こそぎ奪います。「浅いアニソンで踊る」と違って、知ってる曲は少ないかもしれないけれど、知らねーよなんだよこの曲となるのも電波ソングの楽しみ方の一つだと思うので、ね。一緒に踊ろう。

 

 ここからはおまけとして、電波ソングの定義について考える。まず、どんな定義があってもいいと思うし、そもそも○○は電波だ/電波じゃないなんて切り分ける必要もないと思う。でも、いざセトリを組んで電波ソング DJ をやるとなると、この曲は果たして電波なのか? 一体自分は何をもって電波性を判断しているんだ? といった疑問がどうしてもついて回る。

 歌詞が意味不明であることが大事なのか? 全体的な「理解できなさ」は重要な側面であるものの、別に難解な詩ばかりが電波ソングではないはずだ。衒いのないまっすぐなラブソングも、 キャラクターが自己紹介しているだけの歌もたくさんある。ただ、そのラブソングが、すごく高い声で歌われていたり、BPM が 220 だったり、恋愛要素が主題ではない作品の劇中歌だったりすると電波度は上がる。「あー、こういう曲ね」と納得するまでにある程度の情報処理を要するからだ。また、自己紹介ソングにしても、それが設定からしてとても歌いそうにないキャラのものであったり、Vtuber の一曲目のオリジナル曲であったりすると、高い電波度が期待できる。詩も歌い方もぎこちなくなりやすいからだ。ぎこちないとは、「下手」とかではなく、「不自然」という意味で捉えてほしい。言うまでもなく、不自然だから悪いということにはならな い。むしろ良い。電波ソングからは人工物の匂いがして然るべきだ。

では、歌声が重要か? 声が可愛ければ電波か。たしかに、現在の電波ソングという枠組みが形成された源流にはエロゲや萌えアニメといった“男性向け”で反現実的なコンテンツがあり、 萌え声なくしてその虚構は成立しないと言えるかもしれない。萌えに限らず、子供番組の曲も声の可愛さと反現実性が合わさり、電波度が高い。ただ、KAWAII だけが電波ではないことは主張したい。低いボーカル、男性アイドル、芸人の歌ネタにも電波は宿る。平沢進は電波。マツケンサンバは電波。BUMP OF CHICKEN の隠しトラックは電波。

 極端な話、普通のポップスから歌詞やボーカルはそのままに、編曲だけで電波ソングを作ることも可能だろう。実際そういう remix はたくさんある。とはいえ、曲調やサウンドによる定義づけも納得しかねる。アコースティックな電波ソングもあるし、何より、ただ音づくりが電波っぽいだけで歌詞や文脈に「不自然さ」が感じられない曲は、ただ心地いいだけじゃん、と思ってしまう。電波は珍味だ。塩辛、あるいは納豆のように、どんな方向性にせよ、強い匂いがあってほしい。理想的には、電車とかでイヤホンから音が漏れていないか心配になるような、 人前で聴けないキツさがあってほしい。

 電波と見なされやすい歌詞には、例えばこんなパターンがある。①歌い手から愛を伝える、 または愛してと求める。そのメッセージが曲の聴き手に向けられているっぽいことも多い。② 洗脳・救済。要は、私に身を委ねたらあなたは幸せになれるという趣旨のことを歌っている。 ③何かの紹介。大喜利的に小ネタを列挙したり、曲全体で起承転結があったりする。①・②に ついては、歌い手と聴き手の間に関係が発生しがちなことが特徴的で、もっと言えば聴き手の マゾヒズムを感じる。こちらの感情を向こうが盛り上げてくれている。③についても、パンチラインに向かって情報を積み上げていく話術的な工夫を感じるものが多い。以上から、私は「聴き手のテンションを上げに来ている」ことこそ電波ソングの必要条件かもしれないと最近考えている。そんなの電波とか関係なく大概の曲がそうなのでは、と言われてしまいそうだが……。 でも、なんだよこの曲、って初見で面食らうような変さ・キツさがありながら、それでもテンション上げられちゃうなんて最高だとは思いませんか。そういうジャンルなんです。